エイドステーションのU5があるLes Chapieuxを出発したのはまだ夜明け前。次の目的地であるLac Combal (U6)までの19.3kmの道のりは、2つの大きな峠、Col de la SeigneとCol Pyramides Calを越える厳しい山岳ルートだ。このセクションは、UTMB全体の中でも特に過酷で、体力と精神力が試される。頭の中には、計画通りに進みたいという焦りと、冷静さを保つべきだという思いが交錯する。
Col de la Seigne:夜明けと共に訪れる寒さ
Les Chapieuxを出発してから、最初に目指すのは標高2513mのCol de la Seigne。この登りは、序盤こそ穏やかな傾斜が続くが、徐々に足元が険しくなる。
ただ、トレッキングポールを使用すると、脚の負担を軽減し、エネルギー効率が向上することが複数の研究で示されている。特に、膝や股関節などの関節にかかる負担が10%から20%程度減少することが確認されている。。また、トレッキングポールを使うことで、体全体のバランスが改善され、脚の筋肉の疲労が軽減される。なるべくトレッキングポールの力を借りつつ、長い登りを淡々と登っていく。
登りが続く中、空が少しずつ明るくなり、山のシルエットがはっきりと見えてくる。手元のGarminを確認し、決めたワット数でペースを保ちながら、体力を温存して進む。だが、峠が近づくにつれて気温が一気に下がり、体が冷えてくる。また、冷たい風が肌に刺さり、手足の感覚が少しずつ鈍くなっていくのを感じた。周囲のランナーたちも皆、寒さに耐えながら一歩一歩進んでいる様子だ。また、喉が相変わらず痛い。。
ようやくCol de la Seigneに到達した時、夜明け前のイタリア側の景色が一気に視界に飛び込んできた。クールマイユールの谷が目の前に広がり、その向こうにそびえる山々が新しい挑戦を予感させる。だが、この瞬間、ただ感動に浸るわけにはいかなかった。目の前には再び登りが待っていたのだ。。
Col Pyramides Cal:標高2572m、シングルトラックの難関
Col de la Seigneを越えてしばらく下ると、左に折れて再び登りが始まる。目指すのは、この区間の最難関であるCol Pyramides Cal。標高2572m、UTMBの中でも大会KOM (King of the Mountain) ポイントとして名高いこの峠は、まさに体力の限界を試す場だ。登り始めると、道は次第に岩場となり、狭いシングルトラックが続く。先を行くランナーたちを抜くことは難しく、自然と前のランナーの速度により足が止まりがちになる。だが、焦ることは禁物だ。無理をすれば、この後のセクションで命取りになる。自分のリズムを保ちながら、慎重に一歩一歩進んでいく。
シングルトラックの奥に見える景色は圧巻だった。氷河が目の前に広がり、その壮大さに一瞬心が奪われる。冷たい空気が漂う中、氷河から吹き下ろす風が顔に当たる。だが、この美しい景色に見とれてしまうと、リズムが乱れ、無駄に体力を使うことになる。目の前にそびえる岩場に集中し、慎重に進む。
Col Pyramides Calを越えて:長い下りが待ち受ける
ようやくCol Pyramides Calに到達した時、達成感と同時に訪れるのは、次に待ち受ける長い下りへの警戒だった。この下りは600mほどの標高差だが、長く続く急な下り坂が足に重くのしかかる。慎重に足を運びながらも、思った以上にペースは上がらない。下りは一見楽そうに見えるが、膝や足首への負担が大きい。何人ものランナーに抜かれていくのを感じながら、焦りを抑えつつ、安全第一で進むことを心がけた。
途中、石や岩が足元を覆い、バランスを崩さないように注意を払いながら進む。下りは短時間で終わるはずだったが、時間の感覚が狂ってしまい、下りがやたらと長く感じる。ペースが思うように上がらない苛立ちを感じつつも、ここで無理をすれば次のセクションでリカバリーが難しくなる。
Lac Combalへの到着:予定よりも遅れたが、次に備える
最終的に、Lac Combal (U6)にはPlan Aよりも約40分遅れて到着した。疲労は感じているが、まだレースは半ば。ここでしっかりと補給をし、次のセクションに備えることが最優先だ。体は冷えきっていたが、心はまだ折れていない。