川沿いの道:闇の中で感じる孤独
La Fouly(U11)を出発した頃、辺りはすっかり夜の帳に包まれていた。エイドを出るとすぐに川沿いの林道を進むが、夜間のため、周囲の景色は見えない。ただ、トレイルの右側から聞こえる川の音だけが耳に届き、その流れの音がかすかな指標となる。光の範囲に入らなければ、道の両脇で仮眠を取っているランナーたちが見えることはなかっただろう。レースが始まってすでに1日以上が経過している。眠気が襲ってくるのも無理はないが、ここで休んでいる者たちは、いずれ再び走り始めるのだろう。彼らにとって、このタイミングで休息を取るのもひとつの戦略だ。
それでも、自分は進む。2700人ものランナーが参加するこのレースでは、完全な孤独に陥ることはない。ヘッドランプの光が絶えず遠くに見え、前方にも後方にも人の存在を感じる。だが、それがかえって心の中で孤独感を増幅させることもあった。川の音、時折見えるランナーたちの姿。それ以外の何も感じ取れない暗闇の中で、ただ進むしかなかった。
Praz de Fortへ:登りの始まり
川沿いの単調な下り道が続き、ようやく街にでる。次にたどり着いたのはPraz de Fortという村だった。ここから先は完全に未知のエリア。レースの前半部分は、日本にいる時から事前に地図を何度も確認し、コースの詳細を頭に入れていたが、後半に差し掛かると、記憶も曖昧で、もはや自分がどこを走っているのかさえ分からなくなっていた。足の痛さ、疲れなどでトレイルに集中することもできず、疲労感が身体全体に広がっていく。次に待ち受けるのはChampex-Lacへの450mの登りだが、その詳細は不明だ。噂によれば、この登りは厳しいものだという。
Champex-Lac(U12)への登り:ガーミンの頼りになる機能
シャンペ湖への登りに差し掛かると、GarminのClimbPro機能を活用することにした。ClimbProは登りの勾配や残り距離、登坂スピードを視覚的に示してくれるため、どれだけ進んだのかを定量的に確認できる。それは疲れ果てた状態の現在において精神的な支えとなり、この果てしなく感じる登りを何とか乗り越えるための手がかりだった。しかし、歩みは遅く、進捗率はあまりにも遅々として進まない。自分がどれだけ登っているのか、目で確認できるのは救いだが、思った以上に時間が掛かっている。
登りは最初こそ緩やかだったが、徐々に勾配を増していく。また、道はジグザグに折り返し、自分が果たしてどこにいるのか、どれだけ登ったのかさえ分からなくなる瞬間が何度もあった。登りが終わったかと思いきや、まださらに続いている。そうした絶望的な感覚が繰り返され、精神的な負担は大きくなっていった。ただ、後ろからテンポ良く登ってくる選手がおり、その選手の脚の動きに合わせることで、幾分辛さを忘れて登る事ができた。だが、すぐにその選手は見えなくなった。
Champex-Lac(U12)到着:遅れが悪化
長い登りのあとChampex-Lacにようやくたどり着いたとき、時計はPlan Aより1時間20分の遅れを示していた。自分が徐々に遅れていることが現実となって突きつけられる瞬間だった。それでも、脚はまだ動けている。次に進むためにエネルギーを補給し、体を整える。
横になれる休憩エリアで少し仮眠をとろうとしたが、周りの喧騒でまったく眠ることができず諦めた。まだ時間はある。Champex-Lacでの遅れを取り戻すことは難しいだろうが、次のセクションに向けて気持ちを立て直し、歩みを再び進める準備はできていた。