灼熱の道:直射日光が奪う体力
昼を過ぎ、Courmayeurを出発した。太陽は容赦なく頭上に居座り、雲一つない空が広がっている。レース前にこのクールマイユールの街で数日滞在していたことを思い出し、懐かしさがこみ上げてきた。あの時は街の中を歩き、試走を兼ねたハイキング、買い物やレースの準備をしていた。だが、今はそんな余裕はない。目指すはRefuge Bertone(U9)、そしてその先に待ち構える山々。街を抜けて、Bertoneへのトレイルヘッドに向かう道中で、喉の渇きを癒すために水を探した。コースの脇に見つけた公共の水の出る蛇口の場所で、帽子や首、腕を冷やす。だが、その冷たさも一瞬のうちに消え去り、体は再び暑さに飲み込まれていく。
直射日光が肌を焦がすような暑さ。休む暇もなく、次のステップを踏み出す。まだこれから登りが待っているという事実が、心に重くのしかかってきた。空気が重い。体が思うように動かない。だが、止まるわけにはいかない。ゴールまで、あと100km弱もある。
登りの厳しさ:知っている道が遠く感じる
Courmayeurを後にし、次に目指すは標高差780mの急登。5.4kmという距離が短く感じるはずだった。だが、それは試走時の話だ。レース中にここを通るのはまったく別の話だった。試走時には余裕を持って登れたこのルートも、今は足が重く、ペースがまったく上がらない。頭の中では、もっと早く登れるはずだと考えているが、脚がそれに従わない。体はすでに限界に近づいている。キロ25分前後という、あまりに遅いペースで進んでいる自分に苛立ちを感じつつも、それが精一杯だった。ただ、計画ではPlanAで22分、PlanBで24分としており、それ程の遅れではないことでそこまで不安にはならなかった。
試走した時と同じ道、同じ景色が広がっているはずなのに、すべてが違って見える。コースの先が見えるが、そこにたどり着くのがあまりに遠い。太陽が山肌を照らし、光が反射してさらに暑さが増してくる。汗が吹き出し、目に染みる。周囲のランナーもまた、歩みが遅くなっている。みんな同じように苦しんでいるのだと思うと、少しだけ気持ちが楽になる。だが、そんなことを考えている余裕はない。次の一歩を、ただ一歩ずつ踏み出すことに集中する。
暑さと疲労の中で進む:Refuge Bertoneが近づく
トレイルを一歩ずつ踏みしめ、汗が流れる背中を感じながら進む。ふと、頭上に見えたRefuge Bertone。目に入ったその瞬間、ようやくここまで来たのかという安堵が体中を走った。これで一息つける。そう思いながらも、脚はまだ動いている。自分を鼓舞し続けるしかない。まだ走れる。まだ行ける。
途中、ふと目に留まったのは、暑さに顔をゆがめたランナーたちの姿。全員が同じ苦しみを味わいながら、それでも一歩一歩進んでいる。太陽は相変わらず空高く、空気は変わらず熱を帯びている。だが、ここまで来たことが、まだ戦えるという証だ。
Refuge Bertone(U9)へ到着:まだ行ける、疲労はあるが
ようやくRefuge Bertoneに到着したのは、Plan Aから約20分遅れ。だが、その遅れは今の自分にとっては誤差に過ぎない。暑さに苦しめられながらも、脚の感覚はまだ残っている。足はまだ踏み出す力を失っていない。暑さと疲労に押しつぶされそうになりながらも、心の中ではまだ「行ける」と自分に言い聞かせていた。また、Bertoneの先は少しまだ登るが、登り切ったら勾配は緩やかになるボーナスステージであることも試走して分かっていた。
ここから先も長い道が続く。だが、この苦しみを乗り越えた先に待っているゴールを目指して、次の一歩を踏み出す決意を固めた。